前田司郎「愛が挟み撃ち」

気がついたら、1時間も半身浴をしていた。読みはじめたときは、なあんだ不妊の夫婦のはなしか、それで愛がどうこう言うのか、と思っていたけれど、めちゃめちゃに期待をうらぎられた。「水口に頼もうと思うんだ」から一気に過去のはなしにひきこまれていって、現在にもどり、ラストまで駆け抜けてゆく。

 

さいごの手前、俊介と京子が洗濯物を干しながら言い争うシーンがいい。洗濯物を干す動きとセリフのテンポがよく、生活のなかで起きているできごとという感じがする。リアルだと感じるが、洗濯機をまわしたり、洗濯物を干すのを手伝う夫が世の中にどれだけいるだろうか。俊介は、あまりにもふつうな男で、よくできた夫で、しかし、とてもある意味でとても冷たく、残酷な奴なのだと思う。その男が、「愛」と名づけるのも皮肉だ。

 

三角関係とも呼びがたい、矢印がめぐりにめぐる3人の関係。俊介と水口のからだが触れる描写がやけに多いと思ったらそういうことだったのか、と気づく。愛の結晶たる幼子を得るラストは、はたしてハッピーエンドなのか。ある意味ではそうも思えるが、京子の語口からは、彼女はそう感じていないだろうとも思える。俊介と京子はくるくると語り手を変えて話すが、いちども語らない水口は、いったいどう思っているのだろうか。

 

「愛」という単語を題にかかげるだけの青臭さと熱をもった作品であった。

 

まえにTwitterにあげたもの。