2024年2月のこと

 2024年2月29日、うるう日に入籍した。まだいっしょには住んでいないこともあるかもしれないが、どうも実感がわかない。新しい姓と名前がならぶ文字面に違和感がある。まだいっしょには住んでいないし、変わったことといえば、左手薬指に常にゆびわをはめるようになったことくらいか。これまでは3人称を「彼氏」と言っていたが、「夫」などと言うことになるのだが、気恥ずかしくて口に出せていない。

 会社の先輩などに結婚をしたことを報告すると、たいてい子どもはどうするかと聞かれる。夫とかるく話した際には、彼は子がほしいと言っていた。正直わたしは、これまで子どもをかわいいと思ったことがないし、自分の子がほしいと思ったこともない。結婚したいとは思っていないけれど子がほしいと言っていた友人もおり、子に関するきもちはさまざまだ。もっと正直に言えば、結婚願望もそれほどなかった。夫のことはすきだけれど一抹の不安もあり、まあ無理だったならひとりに戻ったっていい(もしひとりになったら、さみしいとかかなしいとか言い出すだろうが)。
 だが、子どもとなるとそういうわけにもいかない、と思う。なんてったって、命であるし、少なくとも20年くらいは世話をする必要がある。気持ちのうえでも、お金のうえでもそうだ。自分たちの生活も変わる。子を持たない人生と、子を持つ人生をくらべたときに、子を持つ人生のほうが、みずからの経験としてはいいかなと思うが、そんな自分本位の気持ちで命を生みだしていいのだろうか。また親は孫をのぞんでいるだろうし見せてよろこばせたい気持ちもある。どう選択すればいいのか、わからない。

 不安な理由はいくつかある。大きな話から言えば、これからの社会は先行き不安だと感じる。じぶんが死ぬまでだって不安なのに、その先を生きるひとのことを考えるともっと不安だ。生活していける給料がもらえる仕事をつづけていけるのか、仕事を終えたときに年金はもらえるのか。海を隔てた国では戦争も起きているが、おなじような状況になったり、そのあおりを受けて不安定な社会になったりしないのか。はっきりと何が、とは言えないが、社会はいい方向に変わっていくようには思えない。なにも行動に移さないで安全な場所から不安だと言っているだけの自分に嫌気もさすが、ここでは措いておかせてほしい。

 つぎに、夫と子を育てることについて。知り合いとあそぶときに、子どももいっしょになるときがあるのだが、夫は面倒見がいい。すぐになつかれて、知り合いたちからも面倒見がいいという評価を受けている。だが、それは身内でないからなんだろうなと思う。彼は身内の人間にはきびしいタイプだ。一定の基準があり、それに達しないにんげんには何を言ってもいいと思っている。と感じる。みずからも怒鳴られたり手をあげられたりしたことがあったと言うが、わたしはそれは正しくないと思っていて、そのギャップが不安だ。互いに納得するポイントまで譲歩しあう必要があるが、身内の人間にはきびしいタイプ、というのはわたしに対してもそうなので、それなりに議論ができなければ言い負かされておわってしまう。よくないとは思っているが、じぶんひとりであればある程度はがまんというか、自分があわせればいいやと思ってしまうのだが、子となればそういうわけにもいかないだろう。口で話すのはとくいでないのだが、どうしたものだろうか。

 さいごに、わたしはわたしが嫌いなので、その血を引いた子も自分のことを嫌いになるような性格に生まれてしまうのではないかと不安だ。両親はわたしをかわいいと言い、どちらかといえば、蝶よ花よと育てられたと思う。また父も母も、わたしがみる限りでは、みずからがみずからのことを好きでいるように思う。それなのに自分は自分が嫌いだ。顔もかわいくないし、やせてもいないし、自分のことを好きでもいられない性格だし。周りのひとたちはそんなことないと言ってくれる。客観的に見れば、たぶん、それほど卑下するような人間ではない。でもわたしはわたしのことが好きになれず、ここからふっといなくなってぜんぶおしまいになって、でも周りのひとびとのなかにはわたしがいなくなったらかなしいひともいるだろうから、ひとびとの記憶はわたしがいない体で書きかわったりどうにかなってしまえばいいのになと思うことがある。自分が思っている分にはそれなりに生きていくかとあきらめもつくが、もし友人などがそんなことを思っていたらかなしい。よって、こんな思考になってしまうにんげんの子も似たような思考になる可能性があるのであれば、じぶんの遺伝子をもった子を生みたくはない。

 冒頭では結婚した、というあかるい話をしたはずなのに、思いがけずくらい話になってしまった。いまは好きに仕事をしているが、両立できるのかどうかも不安だ。写真は、ひとり暮らしの家のなぞのスペース。ひろい机みたいになっていて、いま思えばけっこう好きな空間だった。